期間工物語

期間工物語

期間工物語 第十九話

中原さんが株で病み始めたのをきっかけに、いつもは彼が率先して引き受けてくれていた残業が最年少の悲しさ、僕へと回ってくる羽目になった。株で相当やられていたようだし、とても残業で小銭を稼ぐ気分ではなくなっていたのだろう、仕方が無い。  (という...
期間工小噺

期間工物語 第十八話

工場内に木霊する、心地よい工作音の旋律を掻き乱す声。  (またか、最近やけに多いな…) 声の主は中原さんだろう。 野呂さんが消えた頃から話すようになった彼は、昼食を一緒に食べたり休み時間に話したりしているうちにそのマトモさに気付き始めたのだ...
期間工小噺

期間工物語 第十七話

今にして思えばどうして三人以上いるとわかっている隣室に単身、僕のようなガキが直接文句を言いに行けたのかは謎だ。若さと言えばそれまでだろうが、先の暴力男との一件で変な自信がついた部分も或いはあったのかもしれないし、結局何もないのだろうと高を括...
期間工物語

期間工物語 第十六話

慣れてしまうとあれだけ大変だった、不可能にも思えた工程がさほど苦ではなくなってくる。人類の限界を計算しつくしたギリギリの作業だと思っていたが、次第に他人を助ける余裕まで出てくるのだから我ながら驚くばかり。 当然そんな状況では疲れ方も前に比べ...
期間工物語

期間工物語 第十五話

結論から言えば僕はその後、その雀荘には一度も行っていない。 特にボロ負けしたわけではなく、その日も500円負けというレートを考えれば場代分でちょいと足が出ただけのほぼほぼ勝利と言ってもいい内容だった。 が、やはり危惧していたとおり仲間内の麻...
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期間工物語 第十四話

さりとて数万円程度では日常はそう変わるべくもなく、それでも日々の食費にすら窮していた男がその心配をしなくて済む様になったのは大きかった。次の休日に何をしようか、それを考えるだけで高揚した。 選択肢が増えることで、これまでとは視界さえも変わっ...
期間工物語

期間工物語 第十三話

来る日も来る日もラインを回し回され、やがてそれが日常となり何も考えなくなってきた頃、一月と六日が過ぎた十一月二十五日。ついにその時が訪れた。心無しか朝からみんなの顔がウキウキしている。僕もわけもなく踊り出したいぐらい身体の裡で喜びが暴れてい...
期間工物語

期間工物語 第十二話

キンコーンカーンコンッ・・・ラインの停止と共にエーデルワイスのテーマが工場内に木霊する。これを選んだやつはセンスがいいなと思いながら、45分の待ちわびた昼休憩。我先にと食堂へと急ぐ。 HONDAの飯は美味い。たったの300円前後でお腹一杯お...
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期間工物語 第十一話

一ヶ月もすればもうベテランだ。 その頃になると僕は既に余裕を持って作業を進めることが出来るようになっていたし、さすがにベテランは言いすぎかもしれないが、少なくとも周りに迷惑をかける事はなくなっていた。立派な戦力と言えただろう。 そうしてこの...
期間工物語

期間工物語 第十話

怒号。 それが自分に向けられているものだとしばらく気付けなかった。休日の十時ちょっと、静寂さだけが売りのホテルにおよそ似つかわしくない光景に脳が着いていかなかったのだ。ましてやそれが自分に向けられているなど… 洗濯物のチェックのために踊り場...